松尾みどり
みどりの泉

ヒーリング・ヘルスラボ
心と体のコスモワールド

3.心と体の司令塔”胸腺” 4

私の父は子供時代から秀才であり努力家であり働き者でありました。
同時に、常に怒りにを抱えた短気な人でした。
ガンの宣告を受けた日は、丸一日何も喋る事が出来ませんでした。
その後病室に見舞いに行くと様子を見ながら色々と昔の話をしたり、
時には枕の下にあった般若心経の話もしました。
父親の昔話で、当時の辛かった気持ちなどをよく聞いてあげました。
怒ることが悪いわけではなく、他者に認められなかったことが原因でもなく、
自分自身を他者と比較して失望に追い込んでいき、
自分の存在に価値を見出せなかった、
その気持ちを思い出して、父は時折涙していました。

「お父さん、良かったわね。あの生死不明の8年間のジャングルを
さまようような戦争体験を乗り越えて仕事に就き、結婚して私たちが生まれた。
それなりに皆元気に生きてるし、お父さんも頑張ったと思うわ。
私はお父さんの娘で良かったと思ってる。ありがとう。」
と私は言いました。すると父は
「オレはお前に対して父親らしい事は一つもしてやれなかった。スマン。」
生まれて初めての謝りの言葉を聞き、
私も長年の胸のつかえがとれました。
その後、1日1日と父の表情は元気になっていき、
それまで殆ど食欲の無かった父が少しづつ、
「あれが食べたい」、「これが食べたい」と言い始めました。
私も父を喜ばせようと色々と料理を作って持っていきました。
父も嬉しそうに料理を口にはしますが
次の瞬間には顔が曇ります。「どうしたの?お父さん」と聞くと、
「味がしない。何もわからない‥」といってガックリと肩を落としました。
私は何となく父の死期が迫っている事を肌で感じました。
そう、この味覚や聴覚、臭覚などの五感に異常が出るということは、
本当の自分自身の感覚を失っているという事なのです。
自分自身がどのように生きたいか!どう感じるのか!
そういった感覚が失われていくと間違いなく細胞の働きは低下していくのです。
もしこの調子が続けば明らかに免疫力が落ちるのは必至でした。

間もなく父は病院で体中にチューブを繋がれたまま、
まだまだ生きられるはずの生を静かに閉じてしまいました。
父は働く以外には何の楽しみも無かったようです。
時々囲碁を打つ姿を見かけるくらいでした。
もっと人生を愉しめば良かったのに!父も自分らしく生きればよかったのに!
私にも残念な気持ちが残りました。

back  心と体のコスモワールド  next