松尾みどり
みどりの泉
１．生と死の成立 5
それでもご主人の睡眠は長くなる一方で、
イビキもひどく食も細るばかりです。
Mさんは不安が募り、電話をかけてきました。
”夫は本当に助かるんでしょうか？
こんなにもしてきたのにこのままじゃ私は悔しい！”
Mさんは辛い胸の内を吐露しました。
私はこう言いました。
”あなたの辛い気持ちはよく分かります。
そして今まで本当に頑張ってきましたね。
でも、自分以外の誰にも自分の死をコントロールすることは出来ないのです。
ここに至るまでにあなたが相手に接して感じ得たことが
あなたにとっての何物にも変えがたい財産なのですから
この時期、この相手に出逢い、こうして関わる事で
互いの中に自分を発見できた事に感謝をして快く送り出してあげましょう。”
Mさんは電話の向こうでただ頷いていました。
Mさんはこれまで”自分は誰も愛せない、冷たい人間なのではないか？”
と長い間人知れず思い悩んでいたのです。
しかし今回ご主人を看病している中で
Mさん自身の内面にも大きな変化があり
自分の中の優しさや深い愛に気づいて
自分自身をようやく愛せるようになったのです。
”私、これでよかったんですね！”
その後の電話での明るい声が今でもとても印象的です。
また、彼女には娘が一人います。
彼女は元々とても感受性の強い人で
これまでも度々不思議な予知夢を見ていました。
ある朝彼女はMさんに言いました。
”昨日見た夢でお父さんがとても若返ってすごく元気になってたの。
きっともう元気になるよ”
Mさんも切にそう願っていました。